世界中に笑顔を届けていくために
サンリオは新たな挑戦で進化していきます
代表取締役社長 辻 朋邦Tomokuni Tsuji
これまでの積み重ねが実を結びはじめるなか、新たな挑戦は必要不可欠
まずはじめに、当社が2026年5月29日付で公表した元常務取締役の不適切な報酬受給にかかる事案により、株主・投資家の皆様をはじめ、取引先および関係者の皆様には、多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。本事案を真摯に受け止め、信頼回復に向けサンリオグループ全体における再発防止策の徹底とガバナンス強化に取り組んでまいります。
当社の2026年3月期の業績は、前期に続く過去最高水準となりました。2025年3月期には、時価総額1兆円、営業利益500億円という目標を10年前倒しで達成し、多くのステークホルダーの皆様から温かい激励や期待の声をいただきました。改めて御礼申し上げます。ただ、この成果を振り返ったとき、達成の喜び以上に、次なる成長に向けた課題の大きさを強く認識しています。
当期の好業績も、特定のイベントや施策による一過性の伸びではなく、ここ数年でブランド力が着実に向上してきた流れが、組織や仕組みとうまく噛み合った結果だと捉えています。かつてはハローキティへの依存度が高い事業構造でしたが、複数キャラクターによるポートフォリオ型への転換が着実に進み、とくにアジア市場では他のキャラクターが一定の売上を支える構成となっています。前中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期)から明らかに手応えが変わってきたと実感しています。
一方、ボラティリティからの完全な脱却はまだ道半ばであり、キャラクターポートフォリオのさらなる多角化が必要である認識に変わりはありません。昨年発表した10年間の長期ビジョンとして掲げた「グローバルIPプラットフォーマー」の実現についても、現時点ではまだその入り口に立ったばかりだと自覚しています。好業績を収めた一方で、未来に向けた課題の多さを改めて痛感した1年でもありました。時代の変化が加速するなかで、デジタル領域をはじめとする新たな挑戦は必要不可欠です。グローバルIPプラットフォーマーという長期目標の実現に向けて、新ビジネス・新コンテンツの軸をさらに増やしていかなければなりません。そうした姿勢で、長期ビジョンの実現に向けた手を着実に打っていく所存です。
日常的な体験の「寄り添い時間」から没入度の高い体験「夢中時間」へと育っていく
IPビジネスにおいて重要なのはブランド価値をどう育て、事業成長につなげていくかであり、私たちはその答えを、3つの流れとして捉えています。まず「価値の創造」として、ソーシャルメディアでの露出やリアルな接点を通じてキャラクターを広く知ってもらい、新たなファンの入り口を作ります。次に「価値の蓄積」として、ゲームやデジタルコンテンツといった没入度の高い体験を通じて、キャラクターへの理解と愛着を深めます。そうして蓄積されたブランド価値が、商品購買やサービス利用という「価値の拡張」へとつながり、収益として還元されていくという流れです。露出だけでも、深い体験だけでも不十分であり、広げることと深めることをセットで設計していくことが、当社のブランドづくりの根幹にある考え方です。
サンリオのブランド価値が持続的な成長を生み出す仕組み
この考え方を実践した結果をどう可視化するか。そのために生まれた独自のKPIが、「サンリオ時間」です。お客様がサンリオのキャラクターや商品・サービスに触れている時間の総量を指しており、売上や利益といった財務指標だけでは捉えきれない、お客様とサンリオとの関係の深さと広がりを測る指標として、事業運営の中心に据えています。当初は、2025年3月期から2031年3月期までに累計3,000億時間のサンリオ時間創出を目標としていましたが、2025年3月期に想定を上回る実績を達成したことを受け、目標水準を引き上げ、10年間の長期ビジョンの最終年度である2035年3月期に年間3,000億時間のサンリオ時間創出を目指しています。
サンリオ時間には大きく2つの指標があります。一つが「寄り添い時間」、もう一つが「夢中時間」です。寄り添い時間とは、商品を手に取る、キャラクターを目にするといった日常的な接点から生まれる時間のことであり、夢中時間とは、ゲームや体験施設など、より深い没入体験を通じてサンリオの世界に引き込まれる時間を指します。入り口はあくまで寄り添い時間であり、ウェイトとしてはこちらの方が高くなっていますが、その寄り添い時間がやがて夢中時間へと育つことで、ファンとの関係が深まり、ブランドの土台が積み上がっていくと考えています。
商品やサービスを企画する段階で「これがどの程度のサンリオ時間を生むか」を考えることも、社内の判断基準として定着してきました。笑顔の時間を増やすことが第一であり、そのためにキャラクター育成や商品開発に取り組んでいくという姿勢が組織全体に根付いてきたことには、大きな手応えを感じています。
サンリオ時間と利益の関係については、ステークホルダーの皆様からご質問をいただくことがあります。両者の直接的な相関を数値で実証することは容易ではありませんが、収益化へと至る因果のロードマップは明確に描いています。商品をご購入いただき、体験が積み重なるほどサンリオ時間は増え、サンリオ時間が増えるほどお客様の愛着が深まり、それが次の購買や新たな体験への関心へとつながっていく。そうした循環が、顧客基盤の拡大、IP価値の向上、ライフタイムバリューの増大という形で収益に結びついていくと考えています。
過去のビジネスモデルでは、長期ビジョンを達成できない。着実な成長のための「3本の矢」
サンリオ時間の増大を着実な成長へとつなげるためのエンジンが、現中期経営計画(2025年3月期~2027年3月期)で掲げた「3本の矢」です。前回の中期経営計画については概ね達成できたという評価ですが、長期ビジョンの実現に向けては、現在の仕組みをさらに進化させていく必要があると考えています。3本の矢は、長期ビジョンを具体的に進めていくためのアクションプランとして位置付けています。
1の矢は「マーケティング・営業戦略の見直しによるグローバルでEvergreenなIP化」です。今後はより一層、グローバル規模でキャラクターの露出を強化し、ファン層を拡大していきます。とくにハローキティは幅広い消費者層への浸透が進んできており、シナモロールやクロミなども、これからさらにグローバル市場での露出を高めることで、海外売上比率をさらに引き上げていきます。
2の矢は「グローバルでの成長基盤の構築」です。今の組織のままで10年後の目標を達成できるかといえば、そうではないと考えています。人事施策に100点はなく、80点を維持しながら、残り20点の課題を追いかけ続けることが、私たちの基本スタンスです。課題は毎年アップデートされるものであり、現時点ではデジタル領域の機能拡充など、専門人材の確保が挙げられるという認識です。その課題解決の手段として、M&Aや戦略的ジョブローテーションも積極的に活用していく予定です。
2021年以降の改革でキャリア採用を大規模に進めた結果、社内の雰囲気は大きく変わり、人材の多様性も一段と高まりました。職場環境の変化が従業員の実力を引き出し、会社全体の成長につながっている一方、トップレイヤーがもっと引っ張っていかなければならないとも感じています。現在の変革の成果に対する確信のもとで、組織への投資を続けていきます。
3の矢は「IPポートフォリオ拡充とマネタイズ多層化」です。物販に加え、デジタル・ゲーム・教育など、キャラクターとの接点や体験機会を多層的に広げていきます。接点が広がることで、新たなファンとの出会いが生まれ、既存ファンとの関係もより深まっていく世界の実現を目指しています。
また、1の矢と3の矢はそれぞれ独立した施策ではなく、相互に機能するものです。キャラクターの活躍の場を増やし、グローバルで触れていただく機会を増やすことで、多様なコンテンツやサービスに人が集まり、海外のファンはより深いファンへと育っていきます。こうした多層化は、既存のファンベースをより深く耕すと同時に、これまでサンリオと縁のなかった層との新たな接点を生み出す役割も担っています。こうした多様な接点を増やしていくことが、サンリオの長期的な成長を支える土台になると考えています。
グローバルIPプラットフォーマーの“灯台”を支える土台をより強固に、灯台をより高く、太く、光をより遠くへ
3本の矢を中心とした取り組みを継続することで、私たちが目指す「グローバルIPプラットフォーマー」への姿に近づいてきます。グローバルIPプラットフォーマーとは、キャラクターを起点に、物販、デジタル、ゲーム、体験、教育など多様な領域を横断し、世界中のファンのエンゲージメントが深まるエンターテイメント基盤を広げていく姿です。その姿を私は“灯台”に例えています。多様なエンターテイメントを層として積み上げ、一つの窓から入ったファンが他の階層へと移動しながら、サンリオとの関係を深めていくと、次第に笑顔になる人数が増え、サンリオ時間が積み重なるほどに、灯台は高く、太くなっていきます。
長期ビジョンにて「グローバルIPプラットフォーマー」のコンセプトを発表して1年が経過しますが、その実現にはまだ長い道のりがあると認識しています。グローバルIPプラットフォーマーを実現するためには、リアルとデジタルを横断しながら、お客様との接点をつなぎ、関係性を継続的に深めていける基盤が不可欠です。その中核として位置付けているのが、グループ共通の会員サービス「Sanrio+」のID戦略です。Sanrio+IDとは、ゲーム、ショップ、デジタルなどサンリオの多様なサービスを横断して利用できる共通の顧客基盤です。このIDを軸に、それぞれの接点に分散している顧客との関係を統合し、お客様がサンリオのさまざまなサービスを行き来しながら、より深くサンリオの世界に関わっていただける基盤の構築を進めていきます。
そのなかで、重要な役割を担うのが2026年4月に発表した初のブランドである「SanrioGames」です。ゲームはエンターテイメントのなかでも没入度がとくに深く、夢中時間を多く生み出せる領域です。既存ファンとの関係をさらに深めるだけでなく、家族で一緒に楽しんでいただくなど、性別や年齢を問わず幅広い層がサンリオの世界に触れる入り口にもなります。これまでサンリオとの接点が比較的薄かった層、例えば男児層への新たなアプローチとしても大きな可能性を持っていると確信しています。さらに、ゲーム発のIP開発も視野に入れており、新たなIPが新しい顧客層を生み、Sanrio+IDによってその関係を継続的なエンゲージメントへとつなげていくような循環をプラットフォームのなかに育てていきたいと考えています。
こうしたエコシステムをさらに豊かにする大きな推進力が、共創の力です。サンリオが長年グッズ制作を中心に培ってきた企画力・デザイン力を活かすことで、パートナーとなるIPに新たな価値を吹き込み、新たな購買動機を創出していきます。例えば、あるキャラクターの作画をそのままグッズ化しても、もともとのファンへのリーチにとどまります。しかしサンリオとのコラボレーションでは、サンリオのデザイン力を加えることで、そのキャラクターに「かわいさ」という新たな価値が生まれ、これまでとは異なる層にも手に取っていただけるようになります。
こうした価値創出ができるからこそ、サンリオは他社IPとも競合ではなく、共創の関係を築けると考えています。他社IPのファンがコラボレーションをきっかけにサンリオの世界へ入り、新たな接点や関係性が広がっていくことが、グローバルIPプラットフォーマーへの進化につながっていくと見ています。
グローバルIPプラットフォーマーの“灯台”は、2035年に完成させて終わりではありません。むしろ2035年は、グローバルIPプラットフォーマーとして新たなスタートを切る節目だと捉えています。その光をより遠くへ届け続けるためには、灯台を支える組織基盤を強化し続けることが不可欠です。事業の成長と並行して、ガバナンスも含めた経営の土台を着実に整えていかなければなりません。
グローバルIPプラットフォーマーとは、長年にわたり人々に寄り添ってきたサンリオが、10年後、そしてさらにその先も成長し続けていく姿だと考えています。私たちは、灯台をより高く、より遠くへ光を届けていくために、これからも着実に歩みを進めていきます。
サンリオが大きくなってこそ、笑顔にできる人の数を増やせる
当社が創業以来掲げてきた企業理念は「みんななかよく」です。この言葉には、人間の根本的な幸せとは何かという問いへの答えが込められています。どんな人間も、たったひとりで生きることはできない。だから、支えあい、助け合い、ともに生きる仲間たちと信じあい、なかよく生きていくことが、人間にとっての本当の幸せではないか、という考え方がすべての事業の根底であり、世界的に見ても稀有なサンリオならではの強みであると考えています。
そしてその「みんな」とは、家族、友人といった身近な存在から、学校や会社の同僚、さらには世界中の人々にまで広がっています。
企業規模の拡大に合わせて、笑顔にできる人の幅を広げていく。その思いを込めて掲げたのが、「One World, Connecting Smiles.( 一人でも多くの人を笑顔にし、世界中に幸せの輪を広げていく)」というビジョンです。さらなる成長を目指すのも、突き詰めればこの「みんななかよく」という理念をより大きな規模で実現するためにほかなりません。
サンリオの価値の原点には、ギフトを贈りあう文化があります。ギフトをもらう人だけでなく、贈る人も、選ぶ段階から笑顔になれる体験を設計することが、当社の商品・サービスの根底にある考え方です。「ギフトを贈りあうときの笑顔」が次の笑顔を生み、その笑顔がまた次の笑顔へとつながっていく。その循環こそが、サンリオが長年にわたって人々に愛されてきた理由だと考えています。
エンターテイメントは、衣食住のような必需品ではないかもしれません。しかし、笑顔は人々に必要とされていると私は考えています。地政学的な不確実性や社会の分断が進む世界において、エンターテイメントが果たす役割はむしろ大きくなっていると感じています。言語や文化、世代の壁を越えて、人と人をつなぎ、笑顔を届けられる存在への需要は、取り巻く環境が厳しくなるほど高まっていくのではないでしょうか。あらゆる壁を越えて価値を届けられる企業が必要とされているからこそ、サンリオはグローバルエンターテイメントカンパニーとして、リアルとデジタルを通じ、言語や文化、世代を超えた人々のつながりを大切にする社会を目指していきます。
「みんななかよく」とビジョンを実現するための具体的な行動指標が、グローバルな10の重要課題を定めた「サンリオ・マテリアリティ」です。その考えを体現する活動の一つが社会貢献活動「Sanrio Nakayoku Project」であり、この活動ではハローキティの病院訪問や物品支援、クリエイティブの楽しさを伝える活動など、ビジネスとは切り離した文脈で、笑顔の届け方を追求し、グローバルに展開しています。
ビジネスの成長と、こうした社会貢献活動は、私たちのなかでは矛盾しません。まずは私たちサンリオという企業が大きくならなければ、笑顔にできる人の数は増やせません。世界中に笑顔の輪を広げていくためにどのような価値を届けられるのかを、これからも真摯に考え続けていきます。
おもしろく、生き生きとした企業であるために成長期こそ、変革しなければならない
私が代表取締役社長に就任して6年が経ち、変革期と呼ばれたフェーズから、成長期へと移行してきた実感があります。しかし私は、「成長期こそ変革し続けなければならない」と考えています。成長の勢いがある今だからこそ、この先の10年を見据えた新たな変革に取り組むべきであり、そのためには組織全体に「挑戦」の文化を根付かせていかなければなりません。
トップ自らが挑戦する姿勢を示さなければ、組織に挑戦の文化は浸透しません。社長である私自身がチャレンジャーでなければ、社員も新たな挑戦に踏み出しづらくなってしまいます。ビジョン・ミッション・バリューを策定した際に、「挑戦」を明確に価値観として掲げたのも、そうした思いからです。挑戦には、たとえうまくいかなかったとしても、次につながる経験や学びがあります。そして、そうした挑戦に踏み出せるのは、利益が出ている今だからこそでもあります。少しずつではありますが、挑戦が称賛される社風へと変化してきている手応えを感じています。
ただ、ビジョンや戦略は掲げるだけでは意味がありません。長期ビジョンを実現するためには、社長である私だけでなく、役員一人ひとりが同じ方向を向き、目線を合わせながら進んでいくことが重要だと考えています。そのため、今年の経営合宿は初めて2泊で実施し、長期ビジョンにフォーカスしながら、2035年に向けてどのように“灯台”を築いていくかを役員全員で議論しました。長期ビジョンから逆算し、これから何に取り組むべきかを深く話し合えたことで、楽しくも充実した時間となりました。普段の短い会議では見えにくい、互いの考え方や目指したい方向性も共有することができ、20人弱の役員の結束がより強まった実感があります。「単なる合意形成の場ではなく、長期ビジョンの実現に向けて経営陣が一枚岩になれた」という結束の実感が、これからの変革を推進する力になると確信しています。
当社の強みは、ハローキティをはじめとする世代を超えて人々に寄り添ってきたキャラクター資産です。キャラクターが単に「人気がある」というだけでなく、世代を超えて人々の「日常に寄り添い続けている」という事実が、サンリオの競争力の根幹となっています。幼い頃にハローキティに親しんだ世代が、今度は自分の子どもに、そして孫にサンリオのキャラクターを贈る。そうした時間の積み重ねが、ブランドの強さを形成してきました。「キティちゃんを嫌いな人はいない」と私自身も感じているほど、サンリオのキャラクターは幅広い方々に親しんでいただいています。ハローキティが大好きな方から、「ちょっとかわいいな」と感じてくださる方まで、さまざまな方に「手に取る価値」をお届けできることも、サンリオならではの強みです。さらに、プロフェッショナルなクリエイティビティに加え、従業員から次々とアイデアが生まれ続ける組織文化も、当社の大きな競争力になっています。
こうした強みを活かしながら、中期経営計画で掲げた10年平均営業利益成長率10%以上の達成に責任を持って取り組んでいく所存です。ただし、成長には投資をともなう局面もあり、毎年一律に伸び続けるわけではありません。しゃがむ年もあれば飛躍する年もあり、その波を乗り越えながら中長期で安定した成長を続けていくことで、責任を果たしていきます。
私たちが目指しているのは、凝り固まった企業ではなく、「常に驚きや楽しさを届けられる、おもしろく、生き生きとした企業」です。その実現のためには、従業員が笑顔で働ける環境づくりに加え、ガバナンスの観点も含めた強固な組織基盤を築いていくことが欠かせないと認識しています。
私たちは一人でも多くの人を笑顔にするために、キャラクターとともに成長し、これからもさまざまな挑戦を続けていきます。チャレンジを重ねていくサンリオに、ぜひご期待いただければ幸いです。